展覧会レポート:医学と芸術展

コラム | 2009-12-30 18:31:36

現在六本木ヒルズにある森美術館で開催されている「医学と芸術」展。
レオナルド・ダヴィンチをはじめ、多くの芸術家たちが挑んできた「医学」というテーマをこの展示では掘り下げて紹介しています。

人間の身体は我々にとって、もっとも身近でまたもっとも未知の世界です。人間は太古の時代からその身体のメカニズムを探求し、死を克服するためのさまざまな医療技術を開発してきました。また一方で、みずからの姿を、理想の美を表現する場の一つと位置づけ、美しい身体を描くことを続けてきました。より正確な人間表現のために自ら解剖を行ったレオナルド・ダ・ヴィンチは科学と芸術の統合を体現する業績を残した象徴的なクリエーターと言えます。
本展は、「科学(医学)と芸術が出会う場所としての身体」をテーマに、医学・薬学の研究に対し世界最大の助成を行っているウエルカム財団(英国)の協力を得て、そのコレクションから借用する約150点の貴重な医学資料や美術作品に約30 点の現代美術や日本の古美術作品を加えて、医学と芸術、科学と美を総合的なヴィジョンの中で捉え、人間の生と死の意味をもう一度問い直そうというユニークな試みです。また、英国ロイヤルコレクション(エリザベス女王陛下所蔵)のダ・ヴィンチ作解剖図3点も公開します。
(展覧会公式サイトより)

今回の展覧会レポートは、現在六本木ヒルズにある森美術館で開催されている「医学と芸術」展です。
レオナルド・ダヴィンチをはじめ、多くの芸術家たちが挑んできた「医学」というテーマをこの展示では掘り下げて紹介しています。
それではみどころを中心にレポートしていきます。

第一部 身体の発見

第一部【身体の発見】は、人間がどのように身体のメカニズムとその内部に広がる世界を発見してきたのか、その科学的探究の軌跡と成果を多数の歴史的遺物によってたどり、紹介します。
出品作品はダ・ヴィンチおよびミケランジェロの解剖図、世界各国の解剖模型、解剖図、そしてアンディ・ウォーホル、マグナス・ウォーリン、バイ・イールオ等の現代美術作品、さらに円山応挙、河鍋暁斎等の日本の古美術作品等です。

左)円山応挙《波上白骨座禅図》
1787年代 紙本墨画 132.6 x 59cm 大乗寺、兵庫、香住 
中央)レオナルド・ダ・ヴィンチ《頭蓋骨の習作》
1489年 ペン、インク、黒チョーク 18.8×13.4cm
ROYAL COLLECTION (c)2009 HERMAJESTY QUEEN ELIZABETH II
右)《三人のチベット人の解剖図》
1800年頃 水彩、墨インク、リネン Wellcome Library

本展の一番の見所は、やはり日本初公開となるダ・ヴィンチの解剖図3点でしょう。美しく、緻密なデッサンを間近で観ることができます。
ルネサンス期頃から始まった人体の解剖ですが、ダ・ヴィンチは、解剖学は画家にとって最も重要かつ基本的な知識であると「絵画論」で述べています。
一方で、チベット医学の独自の解釈から生み出された解剖図は、造形的にとても興味深いものであり、西洋と東洋の対比の面白さがわかります。
また、円山応挙の「波上白骨座禅図」も印象に残った作品のひとつです。
波の上に骸骨が座禅するという絵柄は、一見現代アートのようなインパクトを与えてくれます。波=絶えず動きしずまることのない人間の煩悩。それを沈めようとする座禅。見る人によってさまざまな解釈が生まれる作品ではないでしょうか?

第二部 病と死との戦い

第二部は、人間が老いや病、そして死をどのようなものと捉え、またそれに対して、いかに抗ってきたのかを紹介します。医学、薬学、生命科学の発展の歴史だけでなく、老いや病、生と死についての様々なイメージが登場します。
出品作品は、日本の『解体新書』をはじめとする医学書、歴史的医療器具、医療をテーマとした絵画のほか、デミアン・ハースト、マーク・クィン、やなぎみわ等が制作した現代美術作品で構成します。

左)デミアン・ハースト《外科手術(マイア)》
2007年 油彩、カンヴァス 182.9×243.8cm
Photo: Prudence Cuming Associates Ltd.
Courtesy: White Cube (c)Damien Hirst, DACS, 2009
右)レントゲン機
1910年頃、ドイツ 金属、木、ガラス、ゴム、プラスティック 240×80×220cm
Science Museum, London

次は、生と死をテーマに制作を続けていてる、世界の現代アートの最先端を行くデミアン・ハーストの作品をはじめ、実際に使用されていた医療器具や医療資料も展示されています。
装飾的でかつ特徴あるデザインの19世紀の義足、義手は、機能性と同時に外見の装いも重視されていたことがわかります。モノとしての存在感と美しさがあり、思わず見入ってしまいます。

第三部 永遠の生と愛に向かって

第三部は、最先端のバイオテクノロジーやサイバネティクス、そして脳科学などに基づき、人間はなぜ生と死の反復である生殖を続けるのか、人間の生きる目的や未来を読み解くことは可能なのか、そして生命とは何であるのかを、医学資料やアート作品を通して考察します。
出品作品はデカルトの素描、フランシス・クリック博士が直筆で描いたDNA(遺伝子)の二重螺旋構造の素描、フランシス・ベーコン、ヤン・ファーブル、松井冬子等の現代美術作品を展示します。

左)ジル・バルビエ《老人ホーム》
2002年 ろう人形、テレビ、ミクストメディア サイズ可変
マーティンZ. マーギュリー氏蔵、マイアミ、アメリカ
Courtesy: Galerie G.-P. & N. Vallois, Paris, France
右)ヤン・ファーブル《私は自分の脳を運転するII》
2008年 医療用シリコンに塗料、ワックス、布、皮、金属 約 43 x 29 x 24cm
Courtesy: DEWEER gallery, Otegem, Belgium
Photo: Dirk Pauwels / DEWEER gallery, Belgium (c)Angelos

ここでは、人間の生と死や、なぜ生きるのか?といった永遠のテーマについて考えさせられるセクションとなっています。DNAの素描、フランシス・ベーコン、松井冬子の新作が並ぶという、あらためてこの展示のラインナップの面白さが感じられました。
ジル・バルビエの「老人ホーム」という作品では、アメリカのスーパーヒーローたちが、キャラクターとして生み出されてからの実年齢で入居している、という設定の作品です。
「若くて賢くて強い」というアメリカ的なキャラクターたちが、年老いた姿となることで、誰も逃れることができない「老い」の現実と「若さ」への執着に対する皮肉も混じった作品で、思わず考えさせられてしまいます。


以上、「医学と芸術」展でした。
古美術、現代アート、貴重な医学資料、最先端の医療などが一度に観ることができるという、美術と医学の視点が混ざった展示というのは他に例を見ないのではないでしょうか?
リアルな解剖図など、ちょっと刺激の強いものもありましたが、やはり人体というのは興味がつきないもので、つい惹かれてしまいます。
「人間(身体)」は古代から現代まで、つきることのない永遠のテーマであり、モチーフです。医学と芸術というものを総合的なヴィジョンでとらえ、人間の生と愛についてもう一度問い直すきっかけとなる展覧会でした。

展覧会情報
「医学と芸術-生命と愛の未来を探る」展
会期:2009年11月28日[土]− 2010年2月28日[日] 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
開館時間:10:00 − 22:00|火10:00 − 17:00|(12/22(火)と12/29(火)は22:00 まで開館)
展覧会公式サイト:http://www.mori.art.museum/contents/medicine/index.html
森美術館:http://www.mori.art.museum/jp/index.html

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